志乃と爺さんの話
平日の22時半。
某チェーンのコーヒーショップに私はいた。
家にまっすぐ帰らずコーヒーショップに寄ったのにはそれなりの理由があったが、それはおいおい書くとして(それを書きたくてブログを立ち上げたんですけどね)、とにかく私は憔悴してコーヒーをすすっていた。
座っていたテーブルは背もたれのない椅子が等間隔に配置されている大きな円卓で、こんな時間なのに店内は客で賑わっており、座席に余裕はない。
隣のOLたちがいなくなったそのすぐ後に、爺さんはやってきた。
70代くらいかなあ、スツールに慣れた仕草で座り、スーツは洒落ていた。
ただ最初は、「艶男のオールドバージョンかな?」くらいの印象だった。
爺さんの隣は空席だったが、あまり時間をたてずに、またこれも60代半ばくらいの女性がお盆を片手にやってきた。
「志乃さんありがとう」
どうも爺さんの連れらしい。
「コーヒーでよかったかしら」
お財布を開ける志乃さんに、
「よしてくれよ志乃さん、俺は一度あげたお金はもらわない主義なんだから」
爺さんは酔いながらも粋なセリフを吐いていた。
「でも、お釣りにしては多すぎるわよ」「いや」「でも…」
飲み会の後の二次会だろうか?何度かお金のやるやらないを繰り返した後、二人はスツールに座り直した。
爺さんと志乃さんがどういう仲なのかは知らない。
もしかしたら、何かのお稽古事の仲間かもしれないが、自分の両親より少し年上であろう二人は、夜のコーヒーショップで恋愛をしているようだった。
「もうね、志乃さんに会えただけでも俺はうれしいんだ」
爺さんは志乃さんの手を取ろうとする。
志乃さんは「ふふふ」と曖昧に笑う。片手は頬の横にかけられ、逆の手は爺さんに握られそうで握られない場所に置かれていた。
「本当?志乃さんもうれしいの」
その言葉に否定も肯定もしない。志乃はいい女なのだ。
(すげええええええええ…!!)
会話盗み聞くのどうなのよ、という問題はあるけどとにかくすごい。そのモテ仕草、20代で身につけたかった…。
「志乃さん、俺ね、」
「一生かけても君を守るよ」
(すげええええええええ…!!)※2回目
(すげえよ、爺さん!!爺さんの一生ってあと何年なのかわかんないけど!!)
今時の草食男子にこれは言えまい。つーか、私も初めて聞いた。
志乃さんはそれになんて答えたんだろう。
席を立ったから分からないけど、ババアになっても爺さんみたいに粋に生きてみたい。
無理か。